2004年2月16日

教育研究を破壊する運営費交付金削減を行わないことを強く求める声明

北海道大学教職員組合

 財務省は2003年11月に、2005年度以降の国立大学法人への運営費交付金の算定方式に関して、(1)2004年度予算を基準として、一般管理費3%、教育研究費(「人件費」を含む)1%の「効率化係数」を掛け、毎年一定の割合で削減する、(2)附属病院については「教育研究」と「一般診療」とを区別し、後者については病院収入に対して「経営係数」2%をかける、(3)学生納付金の標準額改定を2年毎とする、など重大な内容を含む予算実施案を文部科学省に提示してきました。

 文部科学省は、財務省案に押され、(1)「効率化係数」は認めざるを得ないが率を縮減させ、教育研究の基幹的部分を対象外とする、(2)運営交付金を「学部教育等標準運営交付金」、「特定運営交付金」と「附属病院運営交付金」に種類分けする、(3)附属病院の教育研究と一般診療とを区分し、「教育研究費」は「特定運営費交付金」で、「一般診療費+債務償還金」は「病院収入と診療分の附属病院運営費交付金」で対応する、(4)「特別教育研究経費」新設し特定運営費交付金に含める、などの算定方式案を昨年12月18日の国立大学長・大学共同利用機関長等懇談会において提示しました。また文科省は今年1月6〜12日の各地区学長等会議で、「削減率を低い値に押し留めるので我慢して欲しい」などと述べて各大学学長の「騙された」という怒りを沈静化させるのに躍起になっていました。その後文科省は財務省との協議で押しやられ、2004年1月27日の国立学長等会議で、(1)「効率化係数」は一般管理費、教育研究費ともに1%とする。このうち設置基準上の教員定数分給与相当額を除く。(2)「附属病院経費」は『教育研究費』と『一般診療』に分け、教育職員給与は教育研究費に、医療職員給与と『長期債務』は一般診療経費に含める。但し『経営改善係数』2%を設け、2005年度以降は2%の収入増目標を立てる。(3)『特別教育研究経費』を新設し、プロジェクト経費など新たな教育研究経費区分で増額を目指す。 ことを明らかにしています。私たちは以上の経緯を踏まえ、次の視点から教育研究破壊の運営交付金削減を撤回することを強く求めるものです。

1.財務省の運営費交付金削減案は、多くの大学人の懸念した通りに「法人化」の狙いが経費削減にあったことを露呈させたもので、文部科学省の「算定方式案」は財務省案に屈し、大学の基礎的基盤的経費を安定確保する仕組みを危うくするもので、日本の教育研究基盤の放棄・破壊を意味します。
 国立大学法人経費に「効率化係数」を掛けることは、独立行政法人と同一視することであって、新たな知識、真理の探求、高度の知識と教養を兼ね備えた人材の育成という使命を果たし、教育研究機能の不断の拡充発展が要請されている大学にそぐわないものです。4月から法人に移行する国立大学の自主性・自律性を確保し、教育研究の発展を目指そうとしている大学人の努力を徒労に終わらせるもので容認できません。このような「効率化係数」によって毎年一定の比率で運営費交付金を削減する仕組みを断念すべきです。

2.昨年の国立大学法人法案審議において、高等教育に対する国家財政支出が欧米諸国に比して極めて低いことが自民党議員からも明らかにされ、財政措置については「文部科学省は必要な所要額の確保に取り組む」と文部科学大臣が答弁しています。参議院文教科学委員会附帯決議第12項では、運営費交付金算定については、「法人化前の公費投入額を踏まえ、従来以上に各国立大学における教育研究が確実に実施されるに必要な所要額を確保するよう努めること」と明確に規定しています。国立大学法人法第1条では、「大学の教育研究に対する国民の要請に応えるとともに、我が国の高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図る」としています。このような法律・決議の趣旨などから言って、国立大学に対する財政支出を増大することが政府の責務であって、運営費交付金の削減はこれに全く逆行し、また国会軽視の行為であり、私たちはこれを厳しく糾弾するものです。

3.大学病院予算を「教育研究」と「一般診療」に区分することは、大学病院において教育・研究・医療活動が不可分一体のものとして遂行されている実態から言って重大な問題です。また、「一般診療」を別枠とし、病院収入に「経営改善係数」をかけて大学病院経費の削減を図る仕組みと収入増目標は大学病院の運営を収益第一主義に追い込み、看護師・医療技術職員・事務職員等の労働条件を一層悪化させ、ひいては医療過誤の発生原因を増大させるものです。
 大学病院には医学教育に加え、先端高度医療など医療機能の一層の発展が要請されています。それには多大な経費を要し、採算性が不十分でも高度で先進的医療を維持・開発するという高い公共性を持っており、国家財政から充分な支出が保証されなければなりません。先般の北大など全国大学病院における『医師派遣名義貸し』の不祥事を生じさせた温床とも言える恒常的経費不足を断ち切るためにも、経費の充実が急がれます。さまざまな弊害を生み出す「附属病院運営費交付金」削減は撤回されるべきです。

4.財務省の「学生納付金の標準額改定案」は、2年毎に納付金を引き上げ、それとともに運営費交付金を削減する意図が伺われます。国会附帯決議では、「学生納付金については、経済状況によって学生の進学機会を奪うこととならないよう、将来にわたって適正な金額、水準を維持するとともに、授業料等減免制度の充実、独自の奨学金の創設等、法人による学生支援の取組についても積極的に推奨、支援すること」としています。財務省および文部科学省は、この決議に沿った施策を実現する財政措置を講ずるべきで、これと逆行する「標準額改定案」は許されません。

5.以上指摘したように、運営費交付金削減は、国立大学における教育・研究・医療の水準維持を脅かすもので、私たちはこれに断固反対するとともに、このような高等教育に係わる経費削減問題に立ち至った責任の一端が国大協執行部及び各大学執行部にあることを指摘せざるを得ません。就中北大中村学長は今日に至るまで、法人化問題で真正面から学内での論議を行うことを避けてきました。単に”法典を崇めるだけ”でしかなく、”憲法23条の言う学問の自由の趣旨をどう活かすか”という真の法学者の基本理念を投げ捨て、北海道大学の教育研究の未来を論議して来なかったその責任が強く問われています。

 以上、政府・財務省・文部科学省は大学における教育研究の特性を将来にわたって充分に尊重し、高等教育と学術研究の水準向上と均衡ある発展を支援する見地に立ち、基礎的基盤的教育研究費を拡充するに足る運営費交付金の支出・確保を保証することを、強く求めるものです。

以上