国立大学法人の授業料値上げに反対する声明

北海道大学教職員組合

 既に閣議決定された来年度予算政府案において、国立大学の年間授業料「標準額」が、現行の52万800円から53万5800円に引き上げられようとしている。政府はこの引き上げ額で予算の試算を行い、したがって国立大学に配分される交付金はこの値上げ分が減額されることになる。国際水準から見ても異常に高い日本の国立大学の授業料が更に値上げされることは、「教育の機会均等」をうたった教育基本法の理念に反し、多くの学生・院生の未来に暗い影を投げかけるものとなっている。また先進諸国のなかでも最低水準にある日本の高等教育研究の政府支出が一層削減されることは、日本の文化と科学の発展に重大な影響を及ぼすことが懸念される。

 そもそも国立大学法人化に対しては、運営交付金の配分をもとに文部科学省による教育研究への国家統制ならびに国立大学のスクラップ・アンド・ビルドにつながるものであるという批判が行われてきた。2003年度に成立した国立大学法人化法の付帯決議において、「学生納付金については、経済状況によって学生の進学機会を奪うことのないよう、将来にわたって適正な金額水準を維持すること。国は、高等教育の果たす役割の重要性に鑑み、国公私立大学全体を通じた高等教育に対する財政支出の充実に努めること」が言明されていた。この付帯決議は、法案審議過程で提出された疑念を払拭するために行われたものであるが、その時点で懸念されていた事態がここに進行しつつある。既に文部科学省は、将来にわたる運営交付金の削減を言明しており、今回の授業料値上げがその交付金の削減分をカバーするための恒常的な国立大学の授業料値上げにつながることを懸念するものである。

 北海道大学においては、かかる授業料値上げがもたらす事態は深刻である。北海道の地域経済は深刻な不況状態にあり、またその賃金水準は全国レベルを大きく下回るものとなっている。こうした状況のもとで、学生・院生の家庭では家計に大きな割合を占める教育費の支出を余儀なくされ、また学生・院生も低賃金のアルバイトに従事することを余儀なくされているのが現状である。現在でも高額の授業料の値上げが繰り返されれば、北海道大学で学ぶ学生・院生に過剰な負担を強いられることになろう。事実、無視できぬ数の「経済的事情のため」に退学する学生・院生が発生してきている。学生・院生が経済的事情に関わりなく勉学に集中できるような環境を整備することこそ緊急に求められているものであり、今回の授業料値上げは、そうした方向にも反するものであることは明らかである。

 今回の授業料値上げに対しては、閣議決定に先立って、国立大学協会 (12月8日)、中国四国の10国立大学学長(12月16日)、弘前・岩手・秋田の3国立大学学長(12月18日)、さらに東京大学総長をはじめ東京都内の11国立大学長(12月21日)など、多数の反対声明・見解が政府・文部科学省に対して提出されている。また新聞などに寄せられた意見・投書(例 東大理学部長・岡村定矩「国立大授業料 値上げは再考すべきだ」『朝日新聞』2005年1月19日)に示されるように、授業料値上げに反対する世論は拡がっている。北海道大学教職員組合も、国立大学法人の授業料値上げに深く憂慮の念を覚え、これに反対する声明をここに発する。また国立大学法人北海道大学当局には、法人としての「自主性・自律性」を生かし、政府・文部科学省の「方針」に安易に追随して授業料値上げを行わないことを強く求めるものである。

2005年1月25日