2020年総長選挙

公開質問への次期総長候補3人からの回答


質問事項 笠原正典候補 寶金清博候補 横田 篤候補
質問1【総長解任過程の検証について】
 今回の総長選考は名和前総長が解任されたことに端を発しています。しかし、この解任に至る経緯は構成員に十分に説明されておらず、学内民主主義が軽視されています。また、我々教職員の中には、守秘義務や個人情報を理由に、自らへの嫌疑が十分説明されることなく、身に覚えのない不当な処分が下されるのではないかとの懸念も起きつつあります。このような懸念を払拭し、教職員が納得するためにも、名和前総長の解任過程に関して、学内に検証の場を設けるべきではないでしょうか。お考えをお聞かせください。
 前総長の解任問題については、被害者のプライバシー保護を優先し、さらに二次、三次被害を防止する観点から慎重に対応してまいりました。その上で、学内の皆様にお伝えできるものは全て開示してまいりました。
 このたびの調査において、総長選考会議のもとに設置された調査委員会は、外部有識者3名により構成され、詳細な資料の分析をはじめ関係者からの広範にわたるヒアリングなどを経て事実確認が行われました。それらの調査結果は、外部ならびに内部委員各5名からなる総長選考会議において十分な審議が行われるとともに、前総長による文書および口頭による意見陳述を踏まえて事実として認定されたものです。
 その後の文部科学省における調査においても、総長選考会議が認定した30 件の不適切行為のうち28件が不適切行為として認定され、同選考会議が行った手続きについても、文部科学省は適正であったと結論付けておりますので、あらためて学内に検証の場を設けることは考えておりません。
 本件は、全体として、私を含めて北大の構成員が納得できる解明がなされていないことについて、同感です。訴訟への進展も含めて、扱いの難しい案件でありであることは事実です。しかし、北大の名誉、北大の一般職員の利益、北大の学生の利益が損なわれない方向で、可能な限り、全体像の調査を考えています。  総長解任は非常に重い事態であり、検証することは重要だと思います。この問題はまずは当事者である総長選考会議が検証を行い、その結果を教育研究評議会と経営協議会に報告し、その上で別な形の検証の必要性を議論するのが良いと考えます。
質問2【総長選考方法の変更について】
 2019年12月総長選考会議は選考規定を変更し、学内意向投票は1回きりとなりました。このことは、これまで過半数の得票を得るまで繰り返し行われてきた意向投票の意味を大きく変更します。この変更は、政府の「骨太方針2019」の「各大学が学長、学部長等を……意向投票によることなく選考の上、自らの裁量による経営を可能とするため……国は……各種制度整備を早急に行う」との文言に沿うものです。このような国策を先取りする形で大学が変質していくことが危惧されます。大学の自治、学内民主主義をどのように理解し、これからの大学運営に学内構成員の意向をどう反映させていこうとお考えでしょうか。意向投票有権者の範囲などを含めてお答えください。
 大学の自治、学内民主主義は重要であり、尊重されるべきであると考えています。したがって、総長選考にあたり学内意向投票を行うことに賛成です。しかしながら、過半数の得票獲得者が出るまで投票を繰り返す必要はないと考えます。その理由は、1 回の投票で有権者の意向はおおむね把握できるからです。再投票により候補者を絞り込んでいく方法では、意中の候補者が除外された場合、それ以外の候補者に投票せざるを得ない状況になりますが、それは好ましいことではありません。また、有権者には、大学運営に関して一定の知識と経験を持っていることが求められますので、有権者の範囲は現状で良いと考えます。  組織の代表を決める選挙の難しさは、ご存知の通りです。その組織のミッション、組織の構成員の数的規模感、歴史的背景などによって、適切な選考方法があり、全てに通じる正解はないと思います。現在の北大の制度は、直接民主主義的な意向投票を参考に、総長選考会議が決定するという二段階となっています。
 今回、私自身、総長候補者として選挙運動を経験して感じたことを率直に申し上げると、直接的な選挙による意向投票が、北大規模の総合大学の代表選びに相応しいのか、疑問も感じています。それは、各部局それぞれの求めるものと北海道大学全体としての総合的なビジョンとの整合が簡単でないことも原因と思います。
 現在、大学は、社会との関係性において、大きな変革を求められています。その意味では、現在の総長選考制度は、意向投票の問題ばかりでなく、前もって、多くの教員の推薦を得る必要があり、大きな部局出身者でなければ、実際には、候補となることが難しいという問題もあり、実際、北大では、これまで、大きな部局の代表以外で総長になることはなかったと考えています。
 そこで、様々な方法を選択肢として考えるべきと思います。意向投票の二段階制も確かに優れていますが、各段階である種の合従連衡的な政治的操作が入り込む危惧もあります。 そこで、一例としては、有能な方であれば、小さな部局や外部からでも候補者がノミネートされるように、特に推薦者を多数(現在は20名で、実質は教授、部局長クラス)集めることなく、広く候補者を募った後(自薦・他薦)、各学部の代表である部局長による選挙を行い、その上で、総長選考会議が、質量ともに十二分な審査を行って決めるという方法も一つのオプションではあります。これは、すでに、一部の国立大学法人で行われており、大部局の部局長ではない研究所出身の総長も選ばれています。いずれにしても、北大の学内民主主義を成熟させるためにも、今後、広く議論・検討に値する問題だと思います。
 法人化後の大学の役割が社会連携を含むようになり、広く外部の意見も経営に反映させることが求められている以上、総長を学内の意向投票だけで決めるのは道理に合わず、それを参考に外部委員を入れた総長選考会議で最終決定することになりました。今回学内意向投票は1回で済ませ、繰り返し過半数の得票を得るまで行わないことになったようです。これは大学が社会貢献として産業競争力の向上に貢献することが求められている現在の状況での仕組みであり、それが同時に運営費交付金の削減を伴って行われているため、大学の本来の健全な教育と基盤的な研究の存立を脅かすような状況になっていると考えております。これを適正な範囲になるように是正しつつ、学内意向投票の重みを総長選考会議で尊重してもらうことが「大学の自治、学内民主主義」を守る上で現実的であると考えます。
質問3【新型コロナウイルス感染症への対応に伴う教職員の働き方について】
 新型コロナウイルス感染症への対応は、大学教職員の働き方に影響を及ぼしています。例えば、リモート講義などに伴う過重負担、オンライン業務に伴う疲労の蓄積、超過勤務の可能性などです。
そうした対応に伴う教職員の働き方の実態について、どのように理解・評価をしているか、現状認識をお聞かせください。また、今後、実態を把握するための調査の必要性の有無について見解をお聞かせください。
 決められた時間に決められた場所に人が集まり授業や業務を行うというこれまでの日常が、コロナ禍を契機に大きく変わろうとしています。今後もリモートワークによる授業や業務は継続することになると考えますので、教職員皆様の働き方は大きな転換期を迎えていると言えます。
 何事も転換期には、一時的な業務負荷が発生することは避けて通れないところであり、この点において教職員の皆様に多大なご負担が生じていることは承知しています。しかし、長い目で見ますと、リモートワークが定着化することにより、通勤時間・移動時間の削減、業務プロセスの簡素化、労働時間の縮減等が実現し、家庭と仕事を両立する「働き方改革」にも繋がるものと考えており、今後も益々デジタルトランスフォーメーションを浸透させていく必要があると考えております。ただし、リモートワークの定着に当たっては、先程申したように一時的な業務負荷や仲間とのコミュニケーション不足、業務の処理方法の見直しなど、様々な課題があることも認識しております。今後、これらのメリット・デメリット等を検証しながら、教職員の皆様にとってより良い職場環境を整えていきたいと考えております。
 なお、すでに事務部に対してリモートワークに係る調査を行っておりますが、今後、教員に対しても調査を行いたいと考えております。
 私の提言1で、コロナ感染症によるNew Normalに対する対応に触れています。私は、コロナばかりでなく、今後の執行部は、様々な想定外のリスク管理ができる体制でなければならないと思っています。ご質問でご指摘のように、コロナにより“オンライン”や”リモート“による職場環境の激変により、教職員に大きな負荷がかかっていることを承知しています。その上で、この大きな”日常の変化“の方向は、基本的に不可逆的なものと理解しています。従って、IT化をさらに徹底して、効率化し、不要な業務・会議を減らし、業務負担を減らす方向を目指すことをむしろ積極的に行うべきと考えています。 いずれにしても、ご指摘のように、実態調査が必要だと考えます。  新型コロナウイルス感染症への対応を行うにあたり、様々な問題を突き付けられ、浮き彫りになったと考えております。リモート講義については教員よりもむしろ学生に負担がかかっているようです。一日中下宿や自室でパソコンを見つめる生活が続き、運動不足や疲労が蓄積しているとの声が上がっています。超過勤務についてはリモートでは超過勤務がつかないので減っていると聞いております。在宅勤務は子育て中の教職員には子供たちも在宅であったため負担が大きかったと言われております。しかし何れにしても全体像は不明です。そこで今後、早急にこれらの問題を洗い出すための調査等の必要性が有ると考えています。その上での対応として、例えば、社会の動向を見据えながらポジティブな発想の基に「オンライン業務における新たな方針」を設定し、本学の実情にあった設備の整備を行い、教職員の負担軽減をはかる必要があると考えます。また、こうした検証により、リモートの有効活用による平常時のシステムとしての働き方の改善にも生かせる可能性があると思います。
質問4【職員の時間外労働について】
 長時間労働の常態化は労働者の生命と健康を冒すとともに、過労死・過労自死を招くとして、適正な労働時間規制の実現が喫緊の課題となっております。しかし北海道大学では、2019年4月に「働き方改革法」が施行された後の2019年度においても、職員に対して月100時間を超える時間外・休日労働を命令したことが判明しました。さらに、労働者の過半数代表との間に締結したいわゆる「36協定」で設定された時間外・休日労働の上限時間数も遵守されておらず、この上限時間数を超える職員への違法な労働命令は、同年度に少なくとも60件以上報告されております。このような現状をどう受け止め、どのように解決するのかについてお聞かせください。
 法令違反はあってはならないことであり、36 協定違反にならないように超過勤務を削減しなければなりません。これまでも、管理監督者への周知徹底や超過勤務の縮減目標計画の策定、人員の措置等、超過勤務を削減するための方策は講じているところですが、今後は、事務職員の業務量を減らすことを目的として様々な事務改革を断行し、業務の省力化や効率化を進めていきたいと考えています。  時間外労働の点では、私が長くその責任者であった北海道大学病院では、医師、看護師、事務系職員、医療関係者において、深刻な問題として対応して来ました。この問題は、質問3とも関連しますが、今後、労働環境の大きな変化を迎え、IT化と密集を避け分散を進める今後の社会構造の変化の中で、上手く対応すれば、問題をかなり軽減できると思っております。また、法令順守の立場からも、執行部が主導して、働き方改革を実現してゆきたいと思っています。
 一例としては、定型化した一部の業務は、外部委託するなどにより、教職員の業務負担を大きく軽減できると思います。それも含めて、提言3の経営的収入は重要なものとなります。
 働き方改革の推進は本学として当然なことながら推し進める必要があります。クローズアップされている事務職員の現状は、ご質問にあるとおり時間外労働の是正がなされていない、かつ、逆行するように年々仕事量が増えていると認識しています。そのうえで、最初に取り組むべき事柄として、一つは、適正な人員配置(人数配置)が行われているかを改めて見直すこと。二つ目は、繁忙期における担当間の一時的な異動を今よりよりもスムーズに行えるシステムを構築すること。三つ目としては費用対効果を勘案した上で業務の外注化の検討を行う。これらはすでに行われている事柄であると思いますが、事務サイド任せとして取り組むのではなく、改めて総長の問題・解決するべき事案として取り組みたいと考えております。また、時間外勤務の管理は体制上行っているようですが、時間管理は本人任せになっていると聞いております。このため、時間外勤務の時間管理の方法についても検討する必要があると考えています。
質問5【非正規雇用職員の労働条件について】
 北海道大学では、非正規雇用職員は「労働契約の期間は、大学が特に必要と認める場合を除き、当初の採用日から起算して5年を超えることはしない」とされています。これは、労働契約法で、有期雇用労働者が5年を超えて雇用継続された場合、本人の申出により期限のない雇用としなければならなくなったため、それを回避するための方策ではないかとの疑いが濃厚です。非正規雇用職員なしでは大学の教育・研究が遂行できない現状において、職場も本人も雇用継続を希望している場合にさえ、大学の規定によって5年で雇止めとなる現状をどうお考えですか。また、2020年4月に施行された「パートタイム・有期雇用労働法」で、正規職員・非正規職員の差別的待遇は禁止されましたが、北海道大学では依然として基本給や手当、休暇において大きな格差が残されたままです。今後学内でどのような施策をとっていくおつもりですか。
 現行の「5年」上限ルールについては、適法な取扱いであると考えており、これまでと方針は変わっておりません。しかし、本学の教育研究力の強化という観点から、現行ルールの是非について、様々な観点から検討を行っているところです。
 また、非正規職員の待遇に関しては,教職員のワークライフバランスの充実のため,教職員休暇制度,子育て支援制度を改善するなど、働きやすい職場環境作りを推進する観点等から、令和2年8月1日付けで非正規職員の休暇制度を職員に準ずるよう改正しました。具体には、@現在無給の特別休暇を有給化するもの(療養休暇、生理休暇、労働災害休暇等)、A有給の特別休暇について取得期間を拡充するもの(災害時休暇「現行3日以内」を「必要と認められる期間」に拡充)、B有給の特別休暇を新設するもの(結婚休暇連続5日暦日、父母の追悼休暇1日等)です。
 大学の教育・研究において、非正規雇用職員の果たす役割の大きさは十分に認識しています。こうした非正規職員なしには、大学の運営は成り立たないと思います。
 一方で、財務的裏付けがなければ、こうした非正規職員の5年超えの雇用は、「パートタイム・有期雇用労働法」を遵守し、同一労働・同一賃金の考え方を実現することは難しいことも事実です。この意味でも、私が掲げた提言3の「経営的収入」の増大を目指したいと考えています。
 優秀な非常勤職員を5年て゛解雇するのは、大学の運営にとってもマイナスになると考えています。勤務評価に基つ゛いて、5年以上の雇用を可能にする必要か゛あると思います。しかし北大の財政状況を考えると無期雇用とならない範囲の最大限5年の雇い止めは仕方ありません。もし一律で雇い止めを撤廃した場合、北大としては全員を65歳定年まで雇い入れる人件費が確保できないからです。これを回避するには制度(法律)を変えなければならないと考えます。それによって6年、7年と有期雇用のままで雇用期間が必要に応じて柔軟に延長できる仕組みが整備されることが理想です。そうしたことが可能かどうかは今後検討に値すると思います。
質問6【教員人件費の運用などについて】
 国立大学は法人化以降、運営交付金が削減され続けたことを背景に財政的に危機的状況にあり、2016年の北海道大学総長選考では教員人件費ポイント削減が争点になりました。削減率を7.5%に圧縮するとの前総長の目標を達成したと聞きますが、大学が将来的に発展していく上では人件費の削減自体が望ましいものでありません。今後の教員組織のあり方と運用について、教員人件費ポイントの具体的な数値目標などを含めお聞かせください。
 また、財政改善の方策として産学連携活動の強化が提案されていますが、その活動に関わる教職員に対するインセンティブ、産学連携で得られた成果を活用するための企業との交渉などについて具体的な方策をお持ちでしたらお聞かせください。
 所信にも書きましたが、大学にとって最大の財産は人(教職員と学生)だと考えています。したがって、教員人件費ポイントを現状以上に削減すべきではなく、むしろ財務基盤を強化することにより、削減率のさらなる圧縮を図るべきです。今後、定年の延長問題にも対応していかなければなりませんので、財務基盤の強化には全力で取り組みます。 財務基盤を強化するにあたっては、本学の外部資金の10%程度に留まっている産学連携収益のさらなる向上は不可欠です。本学では、主に首都圏の大企業との組織対組織型の大型共同研究に加え、北大R&BP を核とする地域連携に力を入れた結果、昨年度の道内企業との共同研究受入額は約1.5 億円になりました。これは、前年度までの金額の2 倍です。その他にも、銀行、ベンチャーキャピタルなどと連携してベンチャー起業にも力を入れています。さらに、今年から本格化する若手〜中堅の研究者が参画する「異分野融合シンポジウム」には産学連携マネージャーが参加し、社会実装の観点で審査し、単独特許の出願をサポートし、企業との共同研究を加速します。
 教職員へのインセンティブについては、産学連携だけでなく研究、教育など幅広く検討すべきだと考えています。昨年度の後半から事務部と一緒に検討を進めていますので、近いうちに具体案をお示しできると考えております。
 教員雇用については、この約2年間で、教授職で4%、教員全体で5.3%の減となっています。予想よりは、減数の程度が抑えられています。しかし、明確なことは、このままでは、教員組織は縮小し、場合によっては、講座などの閉鎖に繋がります。
 人件費(ポイント)については、私の提言3にありますように、経営的収入を増加させ、今後10年を目処に、一年間の経営的収入を50億円程度にすることを目標としています。その全てが、人件費には使えないとしても、おおよそ、1億円で10ポイントの人件費と考えると、全学運用定員を十分に利用する一方で、人件費ポイントの減少に歯止めをかけ、この2年間で減じた部分を回復できると考えています。
 また、産学・地域協働推進機構の一層の機能強化を行い、産学連携活動などで得た大学の利益に関わった教職員に還元する適切な制度設計を行いたいと思います。また、企業の規模を問わず、重要な産学連携の交渉には、総長が自ら対応すべきと思います。
 大学の財産は人です。現在の教員組織がベストであるとは思いませんが、少なくとも学生定員が従来通りである前提で、これ以上の人件費削減は現状でさえすでに進行中である大学の教育研究機能の崩壊がさらに加速することを意味します。ですから最低でも現状維持を目指します。具体的な数値目標は第3期の始まった7.5%の削減前に戻すことです。
 産学連携、共同研究の契約件数増加策については、教員にとっては各自の研究成果が自身の研究資金を生み出すシーズとして活用できているという満足感とともに、間接経費を通じて大学全体の人件費や物件費を支えているという意義について認識することがインセンティブになると考えています。成果活用の具体的な方策としては、北大VC(仮称)の設置を含めて北大発ベンチャーの設立、あるいはライセンス契約までであり、その取り扱いについては相手企業に考お任せしたいと思います。なお、ライセンス契約については出来るだけ北大に有利な契約になるよう、共同研究契約の増加策の一環として、産地機構の機能をさらに充実させたいと思います。
質問7【軍学共同について】
 防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度は、学術会議が懸念を表明する声明を出すなど学問の自由に影響する可能性が指摘されています。この制度に関しては、2020年6月に国立天文台等を傘下に持つ自然科学研究機構が応募を認めないと決定した一方、学長が国立大学協会の会長を務める筑波大学では2019年度に5年で20億円以内という大規模研究課題に採択されました。北海道大学でも2016・17年にこの制度による研究がなされた後に、辞退した経緯があります。安全保障技術研究推進制度を初めとする、軍事関係の研究予算、軍事利用可能な研究についてどう考え、北海道大学としてどのような方針を持とうとお考えでしょうか。
 日本学術会議による「軍事的安全保障研究に関する声明」(2017 年3 月24 日)に即して対応していきます。本声明では、「大学等の各研究機関は、軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究について、その適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきである」とされていますので、本学にもそのような審査制度を設けます。  私は日本学術会議会員として、2017年3月24日に発出された「軍事的安全保障研究に関する声明」の議論に参加しております。そして、その声明にあるように、1950年、1967年に発出された2つの先行声明を継承すべきと考えています。すなわち、科学コミュニティが追求すべきことは、健全な学術の発展で、それを通じて社会からの負託に応えることです。学術研究が、政治権力によって制限された結果が、社会に大きな悲劇をもたらした歴史的経験を忘れてはならないと思います。
 防衛装備庁の安全保障技術研究推進制度による研究費獲得については、政治権力との関わりが懸念されます。必要なのは、科学者の研究の自主性や自律性を尊重し、透明性の高い民生分野の研究への支援の充実です。
 確かに、軍事技術と民生分野の研究は、その基礎や応用において、いわゆるdual useの問題があり、明確な分離は困難です。だからこそ、入り口である研究費の獲得における出所については、防衛省だけでなく、慎重に検討し、適切なガイドラインが必要と考えます。
 私は学術会議の声明の精神に賛同し、軍学共同は絶対に認めない姿勢を貫きます。共同研究の契約増なども含め、別の方法で研究費の確保を達成します。
質問8【北海道大学の歴史とこれからについて】
 北海道大学は間もなく開学150年を迎えますが、これまでの大学の歴史にはさまざまな輝かしいものがある一方で、先住民族アイヌとの関係、戦争への協力と宮沢・レーン事件などの冤罪事件の発生、優生保護法に基づく強制不妊治療への関わりなど、大学として検証し反省や謝罪をしなければならない事例もあります。これらを総括し、これからの北海道大学の在り様を社会に伝えるためには、大学の教育・研究や社会との関わりについての基本方針を大学憲章として作成し公表するということも選択肢の一つですが、どうお考えでしょうか。
 大学憲章の制定については、前向きに検討していきたいと考えております。  ご意見に基本的に賛成します。私は、提言の5において、ガバナンス・コードの新設を提案しております。これは、今回の総長解任にいたる様々な問題を受けての提言です。ただ、ご指摘のように、もっと広く、北海道大学として、社会に対して、高い倫理的規範を示して、これを遵守することを宣言する必要があると思います。企業が、コーポレートガバナンスを社会に示しているように、社会の重要な構成員である大学は、その在り方を明確に言葉にして示すべきと思います。
 また、北大には素晴らしい4つの理念があります。これも、私の発表資料にありますように、その意義を踏まえ、今後の北大や社会が目指すべき方向に相応しい理解を加えるべきと考えています。是非、私の発表資料をご覧下さい。
 私はこれを契機に全てのわだかまりをなくしたいと考えております。それが北大の教育研究機関としての責務であり良心だと思います。

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